洋服に関わる仕事の中で。

アパレル不況とまでいわれている洋服の業界。夢を持って今日も売場に立つ人達に向けた僕の知っている、そして30年に渡り経験してきた話。

そもそも信頼されていないアパレル企業。

少し調べただけでも、大量のアパレル店が閉鎖されている。経営側からみれば、沢山ある店舗のうち不採算店を無くせば利益の確保ができ、資金調達もできると考えているのだろうけれども、店舗縮小の後に残された店舗だけで本当に利益を確保できるのだろうか。

 

根本的な解決無しに状況を良くする事は難しい。またある記事には、「ブランドを閉鎖すると、そのブランドの中古市場が活気付く」と書かれている。根本的な事の一つに、商品の価値が消費者に伝わっていないという事が考えられる。それ故、ブランドが閉鎖されるとモノとしての価値が向上するのは当たり前の事であって、そこが根本的な課題の一つだろうと思う。

 

では、モノの価値が伝わるようにするにはどうしたら良いだろう。これは、長年行われてきたブランドの嘘のコンセプト、薄っぺらいコンセプト作りが原因ではないだろうか。ある日突然改装に入った店舗が、改装後売場の入り口に古いハーレーダビッドソンを置いて、「昔から乗ってました」のような打ち出しをする。こういったやり方は、昔からそのコンセプトを貫いている店舗に失礼だと僕は思う。失礼どころか後者にとっての大切な小さなマーケットを荒らしているようにしか見えない。

 

「好きだ、得意だ、ずっと関わっていたい」という気持ちから始まったものと、「市場を見て稼ぐ為にはじめたもの」とでは当然熱量の違いがあり、前者の方が会社規模は小さくても圧倒的な信頼があるのは当たり前だ。勘違いしないで欲しいのは、良い、悪いという判断や評価ではなく、そうやって地方や都心であっても立地の悪い場所で大切に運営されてきた本物が大手によって潰されてしまう事への懸念である。

 

そして新たに台頭してきたのは、ローカルマーケットにおいての手作りだ。これは、作る側と買う側の距離が近く「信頼」で繋がっている。僕の知り合いにもレザークラフトを始めて18年になる姉妹がいるが、1ヶ月の注文数量を聞くと驚く数字だった。この事一つをとっても、企業は信頼を失っていると言う事が根本的な原因の一つである事は間違いない。「最初から信用していませんよ」というのが消費者のスタンスで、距離の近い作り手の台頭は、少々作りが荒くても揺るがない信用を獲得しているのだと感じる。

 

不思議に思う事は、何故この業界にはその全てを覆してしまうような経営者が現れないのかだ。2006年頃に、ある経営塾で僕はこう言った。「これからは心の時代です。ですからむやみに流行をつくったり、追いかけたりしても無駄。消費者と会話するように進めて行かなければ10年後に業界は破綻すると思う」その時の様子は言うまでもなく、苦笑いする経営者が殆どであった。

 

そんな事を考えると、大手よりも小回りのきく中小企業から新しい運営のモデルが確立されるのかもしれない。